

世界中の海を綺麗に!
ミウラの「マイクロプラスチック回収装置」
開発秘話
この難題を解決すべく、長年環境保全に取り組んできた三浦工業(以下:ミウラ)は商船三井様とタッグを組み「マイクロプラスチック回収装置(以下:MP回収装置)」の開発を進めてきました。2020年にフィルタ式MP回収装置をリリース。2023年には新型のサイクロン式MP回収装置の販売を開始しました。
今回はこの装置が誕生するまでに多くの努力を重ねた、開発者へのインタビューをご紹介します。
マイクロプラスチック回収装置の開発者
2010年入社。現場設計などの経験を積み2023年から舶用機器開発部に異動。主に地球温暖化ガスの削減に貢献する省エネ対策製品の開発を担当。異動後すぐにMP回収装置の開発リーダーに抜擢され、設計・実験・製品化までをチームのメンバーとともに行った。特技はボウリングで、ミウラのボウリング大会で優勝した経験を持つ(ベストスコア276)。2児のパパ。
経歴
2010年 入社・特機技術部に配属
2013年 舶用エンジニアリング部に異動(主に現場設計を経験)
2023年 舶用機器開発部に異動

きっかけはお客様の声! マイクロプラスチック回収装置の開発チーム発足
MP回収装置を開発することになったきっかけは、お客様からの声でした。
私たちが開発している装置の中に、バラスト水処理装置があります。船舶には積載貨物の量によって船体がバランスを失うことを防ぐために、バラストタンクと呼ばれる空間が用意されており、積載貨物が少ないときはそこにバラスト水(海水)を取り込み、逆に積載貨物が多いときはバラスト水(海水)を排水して船体のバランスを保っています。しかし、取水したバラスト水を処理しないまま他の海域で排水してしまうと、水中に含まれる水生生物が別の海域へ移動してしまうため、排水した地域の生態系を崩してしまう危険性があります。これを防ぐために、ミウラのバラスト水処理装置は50㎛以上の生物などを自社開発のフィルタで確実に捕捉し、フィルタで捕捉しきれない50㎛以下の微生物をUV照射によって殺滅処理しています。
バラスト水処理装置のフィルタでは、その海域の生物と一緒に海中に浮遊するゴミも捕集されており、その中にはMPも含まれていますが、これまではせっかく捕集したMPも生物と一緒に海に再排出していました。


そんなあるとき、当社のボイラをはじめ、バラスト水処理装置を長年ご利用いただいている商船三井様から「海洋MPを回収できる製品を作れないか?」というお話をいただき、2020年より商船三井様と共同でMP回収装置の開発プロジェクトが発足しました。
初期モデルはフィルタタイプ!マイクロプラスチックは回収できるがある課題が・・・
プロジェクト発足後、最初に完成したのはバラスト水処理装置のフィルタで捕集したMPを逆洗ラインから回収するフィルタ式MP回収装置でした。
しかし、フィルタ式MP回収装置には 2つの課題がありました。1つ目は、低流量にしか対応できないこと。2つ目は、回収したMPやゴミによって回収用ストレーナが閉塞した際に、海水ラインの流れを一時的に止めて掃除する必要があり、船員さんの作業の妨げになる可能性があるということです。MPの回収は環境問題を考えた非常によい試みですが、それにより船舶本来の運用に支障をきたし、船員さんに負担をかけるわけにはいきません。
そこで、処理流量の向上と船員の負担軽減を目指した新型装置の開発を進めることになりました。

航行中に常時回収可能な「サイクロン式マイクロプラスチック回収装置」の開発へ!
フィルタ式MP回収装置の課題であった処理流量の問題や清掃時の負担軽減を考慮した結果、海水ラインに直接フィルタを入れるのではなく、サイクロンセパレータを導入することにより、海水からMPを遠心分離させ、MPが濃縮された別のラインから回収用ストレーナで効率的にMPを回収するというアイデアがでました。これが実現できると、回収用ストレーナの清掃中であってもメインである海水ラインの処理流量を確保でき、船舶本来の運用に影響をきたす問題を解消することが可能です。ここから、新型サイクロン式MP回収装置の開発がはじまりました。


はじめは、回収用ストレーナの下流にポンプを付けて強制的に水の流れをつくっていましたが、最終的にはポンプなしで製品化しました。その理由は、ポンプ自体のメンテナンスの手間と価格面の負担が大きかったためです。ポンプを使用せず、自然に水が流れるような配管や系統を考えることは非常に大変でした。開発期間中は、メインの海水ラインから分岐した処理水を元のラインに戻すために必要な機器・配置場所の検討、圧力のバランス、流量配分、制御方法などを考慮し、何度も机上計算を行いました。また、広島県の瀬戸田にある試験設備へも開発期間中は、足を運びテストを重ねました。


テストでは、大きさの異なる擬似MPを複数用意して、大量の海水と混ぜ合わせます。その海水をサイクロンセパレータに通すことによって、実際に海水からどのくらいのMPを分離・回収することができるのか、条件を変えながら繰り返しテストしました。そして、MPの回収率を集計しながら改良を重ねた結果、目標としていた定格流量時に90%以上※のMPを回収することに成功しました。
※ 流量によって異なる
さまざまな海水ラインに適用可能
当初、フィルタ式MP回収装置はバラスト水処理装置の“逆洗ライン”に取り付ける装置でした。しかし、船舶には海水を流すためのさまざまなラインがあるため、新型装置では逆洗ライン以外の海水ラインにも適用できるよう、試行錯誤を続けました。
特に船舶エンジンの“冷却海水ライン”は運転時間が長く、処理流量が他の海水ラインに比べて大きいため、効果的にMPを回収することが期待できます。また、海水から真水を作る造水装置にも海水を循環させるポンプがあるため、冷却海水ライン同様にMPの回収が可能です。メインの海水ラインに影響を与えないサイクロン式MP回収装置が完成したことで、当社のバラスト水処理装置の“逆洗ライン”だけではなく、“冷却海水ライン”や“造水器エゼクタライン”など多くのラインから連続してMPを回収することができるようになりました。
MP回収装置は自社開発の製品に組み合わせることができるため、一貫したメンテナンスを行える点もミウラならではの強みです。


ミウラ初!「Innovation Endorsement」の認証取得
完成に至るまでには紆余曲折ありましたが、チームみんなで協力し乗り越えることができました。開発期間中のチームはとてもまとまっていて、まさに”ワンチーム”でした。
MP回収装置は新製品のため、客先図や取扱説明書、据付要領書などの資料が完成するたびに達成感がありました。中でも特に嬉しかったことは、2023年11月に日本海事協会より革新的な技術や製品に与えられる認証「Innovation Endorsement」をいただけたことです。社内だけではなく、第三者機関から良いものだと認めていただけたのは、これからの製品開発の励みになります。


お客様とともに環境保全に取り組み続ける
今回、MP回収装置を開発するきっかけをくださった商船三井様とは、開発後も環境保全について真剣に考え、協力しあえるとても良い関係を築かせていただいています。商船三井様の所有船にもMP回収装置を搭載いただき、データ収集やMPの回収・分析にもご協力いただいております。船内における実質的な運用や作業情報を共有してもらい、製品性能や使用方法などの改善に生かしています。サイクロン式MP回収装置は2023年に製品化されましたが、私たちの今後の展望としては、商船三井様が取り組んでいるMP浮遊量や分布データ取得活動に協力させていただき、MP削減活動の効率アップに貢献したいと考えています。

今回、製品開発に携わり改めて環境問題に目を向けるようになりました。残念ながら、海中だけではなく、海岸や森、道端にもまだまだ大量のゴミが捨てられているのが現実です。環境配慮型素材への切替やリユース促進による廃棄物の削減、分解可能なプラスチックの開発など、さまざまな取り組みが進められていますが、根本的に改善するためには、一人ひとりが無駄なゴミを出さない・ポイ捨てをしないなどの意識的な行動が必要だと思います。私自身も、普段の生活から見直していきたいですし、ミウラの製品を導入いただいているお客様に、サイクロン式MP回収装置の存在を知っていただき、環境問題解決に向けての一歩を一緒に踏み出せたら嬉しいなと思います。
おわりに
私たちの住んでいる日本は、海に囲まれた島国です。海で暮らす生物たちを守るため、そして美しい海を未来に残すために。
ミウラはこれからも環境問題に着目した、より良い製品開発に取り組んでまいります。
開発機器
